たまたま飲みの席で一緒になった
建築関係の人が語っていた怖い話

「この仕事って結構大変でさ。
あれは命賭けてるようなもんだ」

そりゃあ建設中の事故とか色々ありますもんね
と私が言うと、そうじゃないんだと彼はかぶりを振る。

「まぁもちろんそれもあるんだけどさ、
建設業界の人間にとって一番怖いのは何だと思う?」

一番怖いもの・・・
事故やら汚職やら爆発やら色々言ってみたが、
どれも違うという。

「あれだよ、御神木だよ」どうやらあれからは逃げられないらしい。
彼はそう言うと、こんな話を始めた。

御神木は結構色んな場所にあるらしく、
家を建てる時にはどうしても
伐採しなければならない場合がある
そうだ。

そんな時は神社の神主さんを呼び、
お祓いや地鎮祭のような式を執り行ってから
伐採作業に取り掛かるらしい。

しかし、たまにそのお祓いが効かない場合があるという。

御神木の力が強過ぎるっていうのかなぁ。
俺にはよく分からないけど、
とにかくそれに当たった人間の末路は悲惨だよ」

彼の知ってる建築業者が、とある地方都市の朽ち果てた神社跡に
ビルを建てる仕事を任されたらしい。

本堂はもう崩れかけているのだが、
その横には立派な御神木が一本立っていた
という。

だが、建築過程においてどうしても
その御神木は切らなければならない状態だったらしい。

神主さんを呼んでお祓いをしてからその御神木を伐採したそうだが、
その後すぐに伐採した二人が亡くなった
という。

一人は交通事故一人は原因不明の心不全だったそうだ。

「その一回だけじゃない。
仕事上そんな話がたまに入ってくるんだよ。
御神木の伐採に関わった人間が、毎年絶対何人か死んでるんだ。
強い御神木に当たるか弱い御神木に当たるか、それはもう運だな」

でもな、と彼は続けて言った。

「俺達は人間が一番偉いと思ってるけどさ、
木の方がもっと長く生きてるんだよな。
それを傲慢な生き物に一瞬で殺されて、
そりゃあ祟りも起こしたくなるよな」

お前も家を建てるときは出来るだけ木を切らないようにしろよ、
と言う彼の左手には小指と薬指が無かった