死者の弔いとして、死者の魂がこの世にあるうちに
死者と伴侶に見立てたもので婚礼を行う、
死後婚と呼ばれる風習があります。

※他にも冥婚(めいこん)・鬼婚(きこん)・幽婚(ゆうこん)
といった名称が使われます。

中国を中心とした東アジア地方で見られる風習で、
場所や時代によっては死者の伴侶には生きた人間が選ばれ、
死者と一緒に埋葬された事もありました。

日本でも山形県青森県の一部地域でおこなわれる風習で、
縁結びで知られる山形県天童市の若松寺には、
ムカサリ絵馬と呼ばれる死後婚の証が納められています。

記念写真風に描かれた絵馬がずらりと並ぶ様子は、
大勢の人に一斉にこちらを見られているような気になって、
なんとなく落ちつかなくなります。

世界大戦で未婚のまま戦場に散った若い兵士の親たちが、
子供のために死後婚をおこなったことで死後婚が盛んになり、
1970年代ごろには全国から死後婚の相談がよせられるようになります。

それまで死後婚は風習というよりも、
そういう儀式があると伝えられていた程度で、
死後婚は戦後盛んになった新しい風習です。

実在の人に似せた伴侶を絵馬に描いたり、
同じ名前を使うとその人が
あの世に連れていかれる
と伝えられていて、
死後婚の伴侶は架空の人物が務めることになります。

ムカサリ絵馬の画風とこの言い伝えで、
怖さのようなものを感じてしまいますが。

「親に先立たれた子供は孤児というが、
子に先立たれた親を表す言葉はない。
子を失った親の痛みを表す言葉はないからだ」

若松寺だけで千組を超える死後婚がおこなわれていて、
記念写真風に描かれたムカサリ絵馬の向こうには、
そんな子を失った親の姿が見えてきます。

仏になった死者の魂は、
仏としての生活をしているという考えもあります。

仏としての生活を支える伴侶をと思うのも、
子を思う親の心なのでしょう。