ベン伝説の起源とクリーピーパスタの誕生

2000年4月27日にNINTENDO64で発売された「ゼルダの伝説 ムジュラの仮面」は、3日間で月が落ちる終末的な世界を描いたアクションRPGだ。このゲームにまつわる都市伝説「ベン伝説」は、あるプレイヤーが中古カートリッジを手に入れたことから始まる。2010年9月7日から15日にかけて、アメリカの掲示板4chanのオカルト板に投稿された一連の書き込みが起源で、投稿者は「Jadusable」(本名アレックス・ホール)と名乗った。彼によると、カートリッジには「BEN」というセーブデータがあり、新たにゲームを始めるとNPCがプレイヤーを「ベン」と呼び、不気味な挙動が続いたという。

この話は「Ben Drowned」としてクリーピーパスタ(ネット上の創作ホラー)となり、YouTubeにアップされたプレイ動画や画像とともに拡散。ゲーム内で「You shouldn’t have done that(そんなことするべきじゃなかった)」や「お前はここにいるべきじゃない」と表示されたり、リンクが突然死に、「ぬけがらのエレジー」の像が追いかけてくる異常が報告された。実際はアレックスによる創作とされているが、ムジュラの仮面の暗い雰囲気—月が落ちる絶望感や仮面の不気味さ—が噂にリアリティを与え、日本でも話題になった。

不気味なゲーム体験と拡散

ベン伝説の核心は、中古カートリッジでの異常な体験だ。Jadusableの投稿では、彼が近所のガレージセールで老人から無料で手に入れたカートリッジに「BEN」というデータが残っていたとされる。新規セーブでプレイを始めると、NPCが「BEN」と呼び、通常ありえないメッセージやバグが発生。例えば、クロックタウンで突然音楽が逆再生したり、リンクが燃えたり、「ぬけがらのエレジー」の像が執拗に現れるなど、ゲームが壊れたような挙動が続いた。彼が「BEN」のデータを削除すると、さらに異常がエスカレートし、PCに「BEN」が干渉してきたと主張した。

この話は2010年9月に4chanで話題になり、YouTubeで投稿者が再現動画を公開。動画では、画面が乱れ、不気味なメッセージが表示され、最後には「BEN」の名が強調される演出が加えられた。日本でもニコニコ動画や掲示板で翻訳され、「呪われたカートリッジ」として拡散。特にムジュラの仮面の暗いテーマ—死や時間のループ—がクリーピーパスタとマッチし、「本当に呪われてるのかも」と感じるプレイヤーが続出した。創作と分かっていても、不気味さがファンの心を掴んだ。

ゲームとクリーピーパスタの背景

「ゼルダの伝説 ムジュラの仮面」は、前作「時のオカリナ」の続編として異色の作品だ。開発期間わずか1年で作られ、3日間のループや仮面による変身が特徴。物語の重さや不気味なNPC(スカルキッドやハッピーマスク屋)が、ベン伝説の土壌となった。クリーピーパスタ「Ben Drowned」は、アレックス・ホールが大学の課題として制作したフィクションで、彼は後にインタビューで「ムジュラの暗い雰囲気を活かしたかった」と明かしている。話の中で「BEN」は溺死した少年の霊とされ、カートリッジに宿る設定が恐怖を増幅した。

2010年代のネット文化では、「ラベンダータウン症候群」や「ポリゴンショック」のようなゲーム都市伝説が流行しており、Ben Drownedもその波に乗った。投稿に添付された動画や画像—特に「ぬけがらのエレジー」の不気味な視線や逆再生の「癒しの歌」—が視覚的な恐怖を加え、海外だけでなく日本でも「ムジュラの呪い」として語られた。創作と知られつつも、ゲームの雰囲気が噂を現実味あるものに仕立てた。

科学と心理が解くベンの謎

異常な挙動」を科学的に見ると、実際のバグではなく創作上の演出だ。NINTENDO64のカートリッジは物理的な改変が可能だが、Jadusableが示した現象—特定メッセージや逆再生—はプログラム改変や動画編集によるもの。NPCの挙動や画面の乱れは、ゲームの既存バグ(テクスチャ抜けなど)を誇張した可能性はあるが、「BEN」が現れるのはフィクションの範囲内だ。現実への干渉(PCのCleverbotとの会話など)も、ストーリー性を高めるための創作と結論づけられる。

心理学的に言えば、「恐怖の連鎖」が鍵だ。ムジュラの仮面の不気味な世界観がプレイヤーの不安を刺激し、クリーピーパスタの詳細な描写が集団心理を煽った。「確証バイアス」で、偶然のバグを「BEN」の仕業と解釈する者が増え、拡散が恐怖を増幅。それでも、ムジュラの暗さがなければここまで有名にならなかっただろう。不気味さはゲーム自体が持つ力に由来している。

ゲーム文化の中のベン伝説

ゲーム都市伝説は、技術と恐怖が交錯する現代の怪談だ。「Ben Drowned」は、「かまいたちの夜2の恐怖バグ」や「ぼくのなつやすみの8月32日」と並ぶ名作で、ムジュラの仮面の暗い魅力を象徴する。中古カートリッジという身近なアイテムが恐怖の源となり、プレイヤーの想像力を掻き立てた。クリーピーパスタとして創作されたことが明らかでも、ムジュラの3日間の絶望感や仮面の不気味さが、噂にリアルな影を落とす。日本の「洒落怖」と似た雰囲気も、受け入れられた理由だ。

興味深いのは、ベン伝説がムジュラのカルト的な人気を高めた点だ。2015年の3DSリメイク版「ムジュラの仮面3D」やSwitch Onlineでの配信(2022年)で再注目され、ファンが「BEN」をネタにしつつ楽しんでいる。創作がゲームの遺産に新たな層を加え、恐怖と愛着を共存させた。

現代に生きるベン伝説

2025年現在、「Ben Drowned」はゲームファンやクリーピーパスタ愛好家の間で不朽の話題だ。YouTubeでは再現動画が再生され、「ムジュラをやるとBENを思い出す」とのコメントが並ぶ。Xでも、「中古カートリッジを買うのが怖い」「BENの動画がトラウマ」との声が散見され、2023年のムジュラ23周年でも話題に。Switch版で遊ぶ若者や、レトロゲーム収集家が「BENを探す」と冗談を飛ばすなど、都市伝説としての生命力は健在だ。

ムジュラの仮面は名作として愛されるが、「Ben Drowned」はその暗い一面を際立たせる裏話として、今も語り継がれる。興味があれば、中古カートリッジを手に入れて試すのもいいが、何かおかしなことが起きたら…自己責任で。

カートリッジの奥に潜む影

「ゼルダの伝説 ムジュラの仮面」のベン伝説は、中古カートリッジとクリーピーパスタが織りなす不気味な都市伝説だ。「BEN」の囁きや異常な挙動は、ゲームの闇に潜む恐怖なのか、それとも創作が作り上げた幻影なのか。もしムジュラの仮面を起動するなら、セーブ画面をよく見てみてはどうだろう。「BEN」の名が、あなたを待っているかもしれない。

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