佐賀県と福岡県の県境を流れて有明海に注ぐ筑後川。
ここで捕れる初夏の風物詩が、「エツ」というカタクチイワシ科の魚です。
体長30~40センチメートルの細長く平らなこの魚には、
2つの言い伝えが残されています。
まずは佐賀県佐賀市諸富町に伝わる徐福伝説。
秦の始皇帝の命により、不老不死の仙薬を求めて
日本に渡来した徐福とその一行。
船が有明海にたどり着くと、徐福は投げた盃が流れ着いた場所から上陸し、
川に沿って進みました。
川岸に生えていた葦が邪魔だったので、片側の葉だけを刈っていくと、
川に落ちた葉がエツになったのです。
徐福一行が上陸したとされる場所は、浮盃(ぶはい)という地名で残っています。
さらに不思議なことに、その周辺には茎の片側だけ葉がない
「片葉の葦」が自生しています。
一方、福岡県久留米市城島町に伝わるのは弘法大師伝説です。
ある日渡し場に1人の托鉢僧が現れ、対岸に渡してくれと船頭たちに頼みました。
その僧はずいぶんみすぼらしく、雨にずぶぬれで、
おまけに文無しだというので、誰にも相手にされません。
しかし、気の毒に思った1人の船頭が船を出してやりました。
そうして対岸に到着すると、僧はお礼にと言って、
そこに生えていた葦の葉を手に取り、川へ投げ入れました。
すると、その葉がエツとなったのです。
エツが豊漁のおかげで、船頭の村は豊かになりました。
この僧は、かの有名な弘法大師でした。
城島町の「エツ大師堂」には、
感謝の意を込めて弘法大師が祀られています。
葦の葉がエツになったという以外はまったく違う2つの伝説が、
1本の川を挟んで存在するのです。
コメントを残す