大阪北河内の一部の地域では、
急な繕いものをするときにある「言い伝え」があります。

私の祖母は四人姉妹の長女、
明治生まれで既に鬼籍に入ってから35年は経ちます。

祖母の父親がアメリカで仕事をするため
両親と離れて生活していた時期があります。

ですから祖母の祖母にあたる人から影響を受けていたと思われます。

私の母が嫁いできたときから母と祖母は世間で噂されるような
嫁と姑関係が全くなく、母はのびのびと祖母と接していました。

私が幼い頃、祖母の家で私のズボンの裾のほころびを母が見つけました。
ズボンを脱がし母は糸で縫おうとしたらしいのですが、私は嫌がったそうです。

母は私を叱るし、私は泣いていたのだとだと思います。
それをみていた祖母は私に「Aちゃん、脱いだ!といいなさい」といわれました。

私が理由をきくと「脱いだというと神様が本当にそう思うからよ
と小声で教えてくれました。

きっと神様にきかれてはいけないから秘密だったのだと思います。
母も祖母からその言い方はすでに聞いていたと思います。

本来なら衣服を脱がずに繕いものをするのは
大変はしたなく不作法で、また危険です。

なのにこの言葉は時間がなく急いで縫わなくてはいけないときには有効で、
誰からみても衣服を脱いでいるように思われるそうです。

成長して学校に行く直前に制服のスカートの裾をみつけたりすると
私はこの言い伝え通り「脱いだ!」と大きな声で言い、
母は暗黙の了解で繕ってくれます。

私も母も決して怠惰ではしたない恰好で
縫い物をしているのではありませんと神様に伝えていました。

勿論、スカートははいたままですが
言霊がどちらかにいっらしゃる神様に届いていると今でも信じています。