ホラーや都市伝説に興味があれば、「くねくね」怪談を耳にしたことがあるかと思います。簡単にあらすじを言えば、遠くから人間とは思えないようなくねくねとした動きをする人物を見つけて、それを見たら気が狂ってしまうという内容の怪談です。

怪談関連の雑誌に携わる私は、ある民族学者から大陸側の東アジアに存在する部落に、「くねくね」の発祥だとされる民間信仰があるという話を聞いたのです。その話に大変興味を持った私は、次の特集の企画にしようと考えて部下とともに現地に飛んだのです。

現地の人の話によると、そこは、普段人が立ち入らない集落で、取材許可がなかなか出ることは少ないのですが、結構な額の贈り物が功を奏したこともあり、条件付きで今回単独で極秘取材の許可が出たのです。

部落の出した条件とは、「ヒバ様」と呼ばれる神様が出る場所に夜中立ち寄らないというモノであった。どうもその「ヒバ様」が「くねくね」の元祖のようです。

片言ながらに取材を進めると、16世紀頃から存在する件の部落には、音の響きが良くない太鼓や中国の皇帝から下賜された珍しい皮の鞍が存在すること、この部落では朝鮮人参を特産としていることや「白壇様」という民間信仰もあることを知りました。「白壇様」も「ヒバ様」と同じ場所に出没するようで、こちらも出会うと大変なことになる祟り神のような存在なのだそうです。

その夜、私と部下は同じ部屋で就寝していました。私は熟睡していましたが、突然部下の叫び声が聞こえて目が覚めました。発狂した部下の足元に双眼鏡が落ちており、どうも部下はこっそりと私や部落の人に黙って、例の場所を見ていたようです。私がその双眼鏡を拾おうとすると叫び声を聞きつけて駆けつけた部落の人が、双眼鏡を拾わないように私に厳しくどなりつけたのです。

その後、部落の有力者や警察の立ち合いの下、私と部下は手荷物検査や尋問を受けた末に、私はこの事を口外しないことや二度と部落に立ち入らない事部下は精神的に安定するまで部落に残ることを条件に部落を出されました。私が帰国すると、企画は没となり、部下は会社を退職したそうです。それ以来、部下とは音信不通となりました。

部下は一体何を見たのか、今となっては知る由もありません