場所は和歌山城、裏坂の入り口付近。
裏坂は、山城である和歌山城の天守閣にたどり着く
一番の近道で、石段がくねくねと山頂までつながっている。
緑に囲まれ、ビルだらけの市街地のオアシスのような場所である。
現在は、地元民が散策をし、観光客が行き交う場所である。
その石段の、石垣に囲まれた入口には、石垣に上れる数段の階段がある。
そこは、誰も気づかないような場所。
裏坂を登ろうとすると、ふと何かの気配を感じる。
振り向くと、そこには大きな木がある。
気配はそこから出ているよう。
そちらへ向かうと、石垣に上がる階段の上を、木の根が覆っている。
木の根をよく見てみると…。
小さな人間が、石段を登っている!
いや、小さな人間のような形をした木の根が、
石段に張り付いているのだ!
和歌山城は戦時中、和歌山大空襲により、焼け落ちている。
真夏の大空襲。
和歌山市内は焼け野原となり。
人々は逃げまどった。
熱風と炎に追われた人々は、逃げ場を求めお城へ逃げ込んだという。
あまりの熱さに、水を求め、お城のお堀に飛び込んだ人も多かった。
しかし、そこで人々はかまゆで地獄の体験をする。
熱風と炎によって、お堀の水は湯だっていたのだ。
熱湯と化した堀の水に飛び込んだ人たちは、死んでしまった。
沢山の人が、堀の中で死んでしまったのだ…。
その人たちの苦しみが、霊となって、お城の木の根に憑りつき、
今でも必死に逃げようとしている…。
この木の根の人を知る人は、そうささやき合っているのである。
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