和歌山県新宮市には街の中に、
風が吹くと沼池の中を移動する、
浮島の森
と呼ばれる不思議な森があります。

タネを明かせば沼池に浮かぶ
泥炭に植物が乗っているだけなので、
言葉通りに水の上に森が浮いていて、
風に煽られれば森が移動するのも当然の話です。

浮島の上で力強く足踏みをすれば森全体がゆれるので、
浮島の遊歩道は地面から浮くように整備されています。

水に浮かぶ約5000m²の森というだけでも珍しいのですが、
驚くのはこの森に生息している植物の組み合わせです。

2000年に行われた調査では、
およそ125種類の植物がこの島で確認されていて、
基本的には周辺に生息する植物が中心なのですが、
周辺の気候では見られない植物が浮島の森の中に生息しています。

より温かい地方でしか生息していないテツホシダと、
より寒い地方にしか生息していないミズゴケやヤマドリゼンマイ等、
植物学的に珍しい組み合わせで植物たちが生息していて。

それが都市の中にある浮島の上に群生していることから、
浮島の森は天然記念物に指定されています。

不思議が詰まった浮島の森は、
風習や文化にも影響を与えていて、
古くは神倉神社を拠点とする修験者の集団に、
聖地として考えられてたという記録も残っています。

「おいの」という美しい娘が、
大蛇に『蛇の穴(じゃのがま)』と呼ばれる
沼に引きずり込まれた言い伝えを元に、
『雨月物語』の一遍「蛇性の淫」が作られたといわれています。

浮島の森が水に浮くようになったのは、
江戸時代中期ごろに周囲の水位が上昇したころだと考えられています。

水位の上昇とともに地面が浮かびあがったのですから、
とても衝撃的な出来事に見えたのではないでしょうか。