一般に傘の先と呼ばれがちな部分を「石突き」(いしづき)と呼びますが、先端恐怖症という訳でもなかった私があの日以来「石突き」、特に金属製の「石突き」が苦手になった話です。

およそ20年ほど前、梅雨時ということもあって豪雨が1週間ほど続いたある夜

その日は朝から土砂降りの雨が1日中降り続き、時々雷も鳴り響く空模様で、スーパーの特売日でもなかったこともあり、1日中外出することもなく、アパートの一室に住む私は自宅でのんびりとしていました。

豪雨災害による交通への影響で翌日も職場が休みになったこともあり、午後11時半頃に遅めの夕食を終えた矢先に、

「ピンポーン」

とドアのチャイムが鳴り響きました。

特に知人が来る予定もなく、夜間の宅配配達かと思った私は、ドアスコープからドアの外を見ました。いつもは共有部分のアパートの通路は電灯が点いているのですが、その日は一切点いていない上に豪雨の深夜であるためか、ドアから見えるはずの通路の手すり部分すらも見えぬほどの闇に真っ暗な闇に包まれており、誰もドアの前に立っているようには見えませんでした。

こんな夜中にイタズラだろうかと思った矢先に

「ピンポーン」

と再びドアチャイムが鳴り響きました。

ドアスコープから未だに人が見えずに、こんな夜中に一体誰だろうと思いながら私はドアチェーンを外さないままドアを開けました。開けたドアの隙間の闇から、いきなり金属製の何かが凄い勢いで飛び込んできました。

運動神経に自信のあった私は何とか避けることができましたが、一歩遅かったら大怪我か失明していたでしょう。奇襲を避けて尻餅をついた私の目に入ったのは、ドアの隙間の闇から突っ込まれた傘で金属製の何かはその傘の石突きだったようです。

奇襲を失敗してすぐに傘はドアの外へ引っ込んですぐ

「ダダダダダダダッ!」

と走り去る音が聞こえてきました。

その後、警察に通報したものの、結局犯人は見つからず、他の住人の目撃談もないこともあり、迷宮入りとなりました。ついでにいうと犯人の正体の謎に加えて、もう一つの謎が残りました。

事件当日は間違いなく通路の電灯は全て消えていたのですが、あとで冷静に考えると、それにしては人影や通路のフェンスも分からないほどの闇は暗すぎだったと思います。ドアスコープから部屋を除きこむ犯人の黒目が見えていたにしても、そうでないにしてもゾッとしてしまいます。