ロッキード事件とは:戦後最大の汚職スキャンダル
1976年、米国の航空機メーカー・ロッキード社が、全日空へのL-1011トライスター機売却を目的に、日本の高官や実業家に総額約30億円の賄賂を贈ったことが発覚した。この事件は、元首相・田中角栄を中心に、右翼のフィクサー児玉誉士夫、丸紅商社の幹部らが関与し、戦後日本最大の政治スキャンダルとなった。米国上院の公聴会で明るみに出たこの汚職は、日米関係の暗部を露呈し、今なおタブー視される側面を持つ。
事件の核心は、田中が約5億円を受け取ったとする容疑だ。ロッキード社は財政難を脱するため、海外での受注獲得に賄賂を活用しており、日本以外にも欧州や中東で同様の工作が確認されている。しかし、日本での捜査は田中の逮捕に繋がり、政界に激震を与えた。この事件は、単なる金銭のやり取りを超え、国際政治の力学や国内の権力構造を象徴するものとして語り継がれている。
起源と歴史的背景:冷戦下の日米関係と賄賂の連鎖
ロッキード事件の起源は、1970年代初頭のロッキード社の経営危機に遡る。L-1011トライスターの開発失敗で巨額の損失を抱えた同社は、米国政府の融資保証を受けつつ、海外市場開拓に奔走した。1972年、田中角栄が首相に就任し、日米貿易不均衡の是正を迫られる中、ニクソン大統領との会談で航空機購入を約束した。これが賄賂工作のきっかけとなったとされる。
歴史的文脈では、冷戦期の日米同盟が鍵だ。田中は「日本列島改造論」を掲げ、経済大国への道を歩む一方、米国との貿易摩擦を抱えていた。ロッキードの副社長カール・コチアンは、児玉を通じて資金を渡したと証言し、賄賂は「ピーナッツ」のコードネームで処理された。事件発覚のきっかけは、1976年の米国上院多国籍企業小委員会(チャーチ委員会)の公聴会で、ロッキードの不正が暴かれたことだ。この委員会はCIAの暗部を調査しており、事件は国際的な企業腐敗の象徴となった。 しかし、背景に米国の政治的意図があったとする陰謀説が根強い。田中の資源外交や日中国交正常化が米国の不興を買ったというものだ。たとえば、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官が関与したとする説があり、公開文書で米国が事件拡大を防ごうとした形跡が見られる。
また、田中失脚を狙ったCIAの工作という憶測も、春名幹男の著書などで検証されている。
事件の記録:逮捕と裁判の展開
事件の詳細は、米国公聴会でのコチアンの証言から始まる。彼はロッキードの代理人として、児玉に約17億円を渡したと認めた。児玉は戦時中の不正蓄財で知られ、戦後も政界に影響力を持っていた。1976年7月27日、田中角栄は外国為替法違反で逮捕され、戦後初の元首相逮捕となった。捜査では、丸紅ルートで5億円が田中に渡った証拠が集められた。
印象的なエピソードとして、児玉邸への自殺機突入事件がある。右翼の前野光保が抗議のため軽飛行機で突入を試みたが、児玉は無傷だった。この出来事は、世間の怒りを象徴する。裁判では、1983年に東京地裁で田中に有罪判決(懲役4年、罰金5億円)が下ったが、控訴を続け、1993年の死去まで服役は免れた。児玉は脳卒中で倒れ、裁判中に死去した。陰謀説の観点では、事件関係者の謎の死が指摘される。立花隆の調査では、米軍が急性心不全を装う薬物を開発していた可能性が触れられている。
また、田中の逮捕が米国のリークによるものとする見方があり、ニクソンやキッシンジャーの関与が疑われている。
地域性:東京政界と新潟の田中支持
ロッキード事件は、東京の政財界を舞台に繰り広げられたが、田中の地元・新潟県の地域性が色濃く反映されている。新潟は田中の選挙区で、彼の経済政策(新幹線や高速道路の整備)が地域振興に寄与したため、根強い支持があった。事件後も、田中派は自民党内で最大勢力を保ち、「闇将軍」として影響力を発揮した。
東京では、事件が政界の腐敗を象徴し、メディアの報道が過熱した。文藝春秋の立花隆によるスクープが捜査を加速させた。一方、米国との関係が深いため、事件の全貌解明はタブー視され、政財界の癒着が問題視された。陰謀説では、キッシンジャーが「オフ・コース」と答えた逸話が語られ、米国による田中排除の証拠とされる。
陰謀説の深掘り:米国による田中失脚の策略
ロッキード事件を巡る陰謀説は多岐にわたる。主要なものは以下の通りだ。
まず、「キッシンジャー陰謀説」:田中の日中国交正常化や資源外交が米国の利益を害したため、キッシンジャーが田中失脚を画策したとする。公開文書で、米国が事件を田中一人に絞って幕引きを図った形跡がある。
次に、「誤配説」:ロッキードの文書が誤ってチャーチ委員会に届いたため発覚したというが、春名幹男はこれを否定。
また、「ニクソン陰謀説」や「三木武夫の謀略説」も存在するが、証拠は乏しい。 さらに、CIAの関与を指摘する声が多い。田中が米国の頭越しに中国接近したため、CIAが工作したとする。
ロッキードがロスチャイルド系企業で、キッシンジャーがロックフェラー派閥の人物とする見方も。
事件の本命は旅客機ではなく対潜哨戒機P3Cの売却で、中曽根康弘が黒幕だとするNHKのスクープもある。これらの説は、米国の情報公開が進まないため、タブーとして残る。
地元の声と世間の反応
事件当時の世論は分裂した。新潟の地元では、田中を「米国陰謀の被害者」と見なし、支持が続いた。ある住民は「角栄さんは新潟のために尽くした。賄賂はどの政治家もやっている」と語る。一方、都市部では批判が強く、「日本の恥」とメディアが報じた。
現代のSNSでは、陰謀説が活発に議論される。X(旧Twitter)では、キッシンジャーの関与や中曽根の「もみ消し」依頼が話題。また、事件関係者の謎の死を米軍の薬物工作と結びつける投稿も。
陰謀説の信奉者は、田中を英雄視し、米国の影響力を警戒する声が多い。
その後の展開:政治改革と未解明の謎
事件後、田中は「闇将軍」として1980年代の政界を操り、竹下登や中曽根を支えた。1985年の脳卒中で引退し、1993年に死去。事件は政治資金規正法の改正を促したが、金権政治はリクルート事件などで続き、根本解決に至らなかった。
2020年代に入り、春名幹男の『ロッキード疑獄』が陰謀説を検証し、キッシンジャー説をほぼ肯定。 米国公文書の黒塗り部分が、巨悪の存在を示唆する。 最近の議論では、田中の外交が米国の「虎の尾」を踏んだとする見方が再燃している。
現代への影響:タブーとして残る政財界の闇
ロッキード事件は、日米関係の不平等や政界の腐敗を象徴し、現代の政治スキャンダル(裏金問題など)と比較される。陰謀説は、インターネットで拡散され、若者層の政治不信を助長。田中の功績(地域振興)が再評価される一方、事件のタブーは米国の影響力を想起させる。
事件は、海外腐敗防止法(FCPA)の制定を促し、国際的な企業倫理を変えた。しかし、日本では真相の全貌が明らかにならず、政財界の癒着が残る。
終わりに
ロッキード事件は、田中角栄の栄華と没落を象徴し、陰謀説が絡む永遠の謎だ。政財界の闇と米国の影が、事件をタブー化している。真相が解明される日が来るのか、それとも歴史の霧に包まれ続けるのか。次に日米関係のニュースを聞く時、ふとこの事件の余韻を感じるかもしれない。
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