私がまだ大学生だった頃のお話です。
当時付き合っていた彼氏がいました。
ある時彼が私の実家に遊びに来ることになり、
我が家の四畳半を彼のために貸すことにしました。
私の実家というのは、すでに築50年を超える二階建て住居で、
家のあちこちが痛んでおり、二階に住んでいた家族が出て行ってからは、
二階は廃墟と化しています。
彼が泊まる四畳半も湿気がたまりやすい部屋で、
窓を開けるとすぐドブ川という、
あまり環境のいいところではありませんでした。
しかし部屋数が少ないので、そこしか貸せる部屋がなく、
布団をしいてそこで寝てもらうことにしました。
その晩のことです。
彼が眠っていると、四畳半の隣に位置する台所から、
物音が聞こえてきました。
ギシ、、ギシ、、と床が軋むようなその音は、
人間の足音のようです。
やがて台所にいたそれは、気づけば四畳半の窓際を歩いており、
足音はドブ川の横の砂利道をすり足で歩くような音に変わりました。
はじめは家族の誰がが起きてきたのだと思っていた彼は、
ここで何かがおかしいことに気づきました。
足跡は台所の壁を通過して外に出ていたのです。
人間の仕業ではありません。
そしてその音は徐々に、四畳半のタンス側の壁に回り込みます。
四畳半の周りを、ギシギシ、、と円を描くように歩き回り始めたのです。
涙目の彼をよそに、その足音の速度がはやくなっていきます。
ギシ、、ギシ、ジャリ、ジャリ、、
ジャリ、、ジャリ、、ダダダダダダダダダダダダダダ
部屋の気温がどんどん下がり、
足音は気づけば駆け足になっていました
バン!
飛び起きた彼の眼前に、
能面のような白い顔をした黒い塊のようなそれが、
ドアを開け放ち佇んでいました。
恐ろしくなった彼は布団をかぶり、
頼むから帰ってくれとひたすら祈り続けました。
するとそのうち気配が消え、気温も元の通りに戻っていました。
ホッとするのもつかの間、
ジャリ、、ジャリ、、、
うわああああっ!
結局彼は、何度も同じ物体に追い回され、
辺りが明るくなるまで眠ることができなかったそうです。
憔悴しきった彼は、フラフラと帰って行きました。
私もよく、夜中に台所で勉強していると、
家の周りを歩き回る足音は聞いていたのですが、
「それ」の姿まで見たのは彼ひとりでした。
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