烏名(カラスナ)京都に近い消えゆく集落に残る、
子供が生まれた時に本名とは別にもうひとつ名前をつける風習です。

奈良時代よりも古い時代、
高貴な人物があらぬ疑いをかけられてしまい、
集落の裏山に逃げのびたことから始まったと伝えられています。

その時に何があったのかは長い時間の間に忘れ去られていますが、
逃げのびた高貴な人が住んでいた岩屋には神棚がもうけられ、
今も住人達が交代でお供えを続けています。

本当の名前と仮の名前をつけるのは他の地域でも見られる風習で、
本当の名前は親と本人だけが知っている名前で、
それ以外の兄弟・姉妹にも知られてはいけない秘密の名前です。

そのため普段は仮の名前で生活をするのですが、
烏名は仮の名前を名乗る時が決められていて
烏名の方を使わないようにして
普段は本名を使って生活しているのが特徴です。

「裏山に用事で入った時に、
風にのって名前を聞く声が聞こえた時にだけ、烏名を名乗りなさい」

「名前を聞く声に本名を答えると連れ去られ、
何も答えないと家族の誰かが死ぬ。だから烏名を名乗りなさい」

子供がある程度会話できるようになった時に、
烏名とそれを名乗るときが教えられます。

名前を聞く声は逃げのびた高貴な人の声だと言われていて、
集落の住人が非道な事をして呪われたのなら、
お供えは怒りを沈めるために、
烏名は身を守るためにと考えることが出来ます。

逆に、逃げのびた人物が信仰を集めるような特別な存在で、
そんな人物と対話するときにだけ
烏名(秘密の名前)を使いなさいというのが、
いつの間にか間違って伝わっているとも考えられます。

高貴な人と住人の間に何があったのかは
想像することしか出来ませんが、この集落限定の風習で、
住人が街に移り住むようになった今では、
失われていく風習という事だけが確かなことです。