ある大学の野球部の話です。

その野球部は、山奥にある球場で
合宿をしていた
のです。

終日きつい練習をこなして、
その日は、疲れ切って宿舎に部員は帰りました。

その中には、
昔から仲の良いバッテリーも含まれていました。
ピッチャーとキャッチャーの二人です。

その夜、外は大雨になり、
大変な天候
になっていました。

そんな中、部員たちが深い眠りに就いていた宿舎に、
電話のベルが鳴り響きました

たまに聞こえる外の雷鳴にかき消されることもない、
けたたましいベルの音でした。

その電話は、ピッチャーの祖母が亡くなった
という訃報だった
のです。

ピッチャーは急いで自分の車で家に帰ろうとしました。
しかし、山奥で危険とも言える天候です。

親友のキャッチャーが、気持ちは分かるが、
夜か明けて天候が回復するのを待つように助言しました。

しかし、ピッチャーの意志は固く、
不安を感じながらも、
キャッチャーはピッチャーを見送った
のです。

無事に到着することを祈りつつ。
そして、キャッチャーは再び眠りに就いたのです。

すると、遠くからピッチャーの声が聞こえてきて
まどろんでいるキャッチャーを呼ぶ
のです。

寝ぼけ眼で応えると、そのピッチャーが、
枕元のグローブを投げてくれと言う
のです。

ピッチャーは、
そのグローブをとても大切にしていた
のです。

キャッチャーは、大変な天気でなぜ、
グローブぐらいで戻ってきたのか
と思いつつ、
窓の外に立っているピッチャーに、グローブを投げてやり、
ピッチャーは礼を言って去っていきました。

あまりの眠たさに、
またすぐ寝入ってしまったキャッチャーでした。

そして翌朝、警察から悲しい知らせが入ってきます。

それは、ピッチャーが崖から車ごと転落して、
死亡してしまった
という事故の連絡でした。

キャッチャーは、すぐに後悔しました。

なぜ、あんな天気の中、
無理にグローブぐらいで戻ってきたのか
と。

しかし、その話を聞いた部員は、
はっと気がついて、
背筋が凍るような気持ちに陥りました。

皆が床に就いていた、
窓越しにグローブを投げてやった場所は、
なんと2階だった
のです。

その後、分かったのですが、
亡くなったピッチャーの車内には、
彼の傍らに血染めのグローブが転がっていた

ということでした。

まるで、ピッチャーに寄り添うように

そして、そのグローブは、
亡くなった祖母がピッチャーに贈った物だった
のです。