引っ越した家の物置に、古いピアノが放置されていた。鍵盤は黄ばみ、埃にまみれていて、とても弾ける状態ではない。試しに蓋を開けると、中からかすかに音が漏れ、埃が舞い上がった。彼は気味が悪くなり、蓋を閉めたが、その夜、眠りに落ちる直前、ピアノから不協和音が響き渡った。目を覚まして見に行くと、ピアノは静かで、何も変わっていない。だが、鍵盤に小さな指の跡が残っていて、拭いても消えない。翌日、ピアノを処分しようと業者に連絡したが、夜になるとまた音が鳴り、今度は旋律のようなものが聞こえた。暗闇の中で、鍵盤が勝手に動き、埃が部屋に広がる。恐怖で眠れず、彼はピアノに布をかけて放置したが、布が床に落ち、音がさらに大きくなった。ある晩、ピアノの前に立つと、鍵盤の上に白い手が浮かび、彼の指を掴もうとした。慌てて逃げたが、次の朝、ピアノは元の場所に戻り、鍵盤に彼の指紋が刻まれていた。
近所に聞くと、「その家、昔、ピアノを弾く子が消えたって話があったよ」と教えてくれた。彼はピアノを燃やそうとしたが、火をつけると煙が黒く立ち上り、低い笑い声が響いた。それ以来、ピアノは鳴らなくても、夜に鍵盤の音が頭に響き、背後に誰かが立つ気配がする。彼は引っ越しを考えたが、新しい家でも埃の臭いと音が追いかけてくる。


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