私はお茶が大好きで、
たまに専門店に行き珍しい茶葉を買うのが
何よりの楽しみです。
その日も、子どもを託児所に送って行ったあと、
商店街の一画にある小さなお店で茶葉を選んでいました。
そこのお店の奥さんが、「あの…」と話しかけてきたのです。
「もし違ってたらごめんなさいね。
あなた、もしかして〇〇通りの
古い家を買った方じゃないですか?」
彼女の言う家がまさに自宅でしたので、
不思議に思いながらも「ええ、そうです」と言いました。
「ああ、やっぱり!実は私、
あの家に前に住んでいた××の孫娘なんですよ」
「まあ、そうだったんですか。」
そんな調子で話がはずみました。
私自身はもちろん彼女のおじいさんとは面識がなく、
その家を相続した息子さんから中古物件として購入したのです。
お茶屋さんはまた別のお子さんのお嬢さん、
ということでした。
彼女は小さい頃は少し離れた町に住んでいましたが、
時々おじいさんの家に遊びに来て、
夏休みなどをそこで過ごしたそうです。
「わあ、懐かしいわ。もちろん改修工事はされてるんでしょうけど、
でも近くにある〇公園の小さな木立は今でも見えますでしょう。」
「ああ、あの森みたいな小さな丘ですね。
あれって、古代の塚か何かだって聞いたんですけど、
考古学的な調査は入ったんでしょうか?」
「ええ。でも大したものはみつからなくて、
とりあえずの古墳として、遺跡登録されているだけらしいですよ。」
そこまで言って彼女は間をおき、こう聞いてきました。
「あの…あなた、小さいお子さんがいらっしゃる?」
「ええ。」
「夜によく泣いたりしませんか?」
どうして彼女がそれを知っているのか、
これまた不思議でした。
「私もね、小さい頃に怖かったんですけど…古い家ですから、
色々と変わった音が聞こえるんですよ。
もし突然泣いたりしても、叱らないであげてね。」
実は、夜中に突然泣き叫ぶ子どものことが気がかりで悩んでいたのです。
まだ言葉がおぼつかないので、よくわからなかったのですが、
何となく彼女の言いたいことが分かった気がしました。
私自身は霊感がほとんどありません。
ですが、幼い子供には、あの古い家と土地にまつわる何かが…
見えて・あるいは聞こえていた可能性があるのです。
しばらくの間、私は夫の反対を押し切って
子どもと一緒に寝ることにしました。
その後子どもは安眠するようになり、
幼稚園に入った頃から見違えるように活発な子どもになりました。
寝る時も一人で大丈夫と思い、
私は元通りに夫と就寝するようになりました。
その夫が言いました。
「やれやれ、君がいない間は毎日変な夢を見て弱ったよ。
そこのガラス窓ね、あそこから昔の衣装をぞろりと着た
女の人が張り付いて、僕に何だか話しかけて来るんだ。」
自分に霊感がなくて良かった、と思った瞬間でした。
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