以前働いていた職場で先輩から聞いた怖い話。
先輩がまだ入社してすぐの頃のこと。
いつも使う女性更衣室と同じフロアに、
一か所だけ異様に暗い通路があることに気が付いたという。
その一角はメインの通路からL字に折れ曲がっていて
奥まった場所にあり、窓も無い。
また折れ曲ったところですぐに行き止まりになっている為、
滅多に人が使うこともなかったせいか、
廊下の電気すら付いていないことが多かったという。
ただ、その通路の奥の方には女性トイレがあるのだが、
誰もそのトイレを使おうとしない。
いつもわざわざ違うフロアのトイレを使っている同僚達を見て
不思議に思った先輩であったが、暗いから皆気味が悪いんだろう
ぐらいに思っていたという。
しばらくして、先輩の部署にもう一人新人が入ってきた。
先輩とその新人は仲良くなり、一緒に過ごすことが多くなった。
ある日の仕事終わりのこと。
この日は残業が長引き、
同じ部署で残っているのは先輩と新人だけだった。
帰り仕度を終えて二人で通路を歩いていた時、
突如新人が、トイレに寄っていってもいい?と言った。
あの暗い通路の前である。
ついでに自分も行っておこうと思い、
二人で奥のトイレに入ったという。
入ると個室が三つあり、奥の個室は誰かが使っているらしく、
閉まっていた。
先輩が先に終わって手を洗っていると、
新人も出てきて手を洗い始めた。
奥の個室はまだ閉まっている。
不思議なことに何の物音もしなかったという。
「ねぇ電気どうしよう?」
「あれ誰か入ってるんじゃないですか?」
「でも人がいる感じしないよ。もしかして故障なんじゃない?」
そう言って先輩が電気のスイッチを押して
トイレ全体が真っ暗になった瞬間、「消さないで・・・・・」
か細い声が閉まった個室の方から聞こえてきたのだという。
先輩達はあわてて謝り、もう一度電気を付けて去ったのであるが、
新人が「おかしいなぁ」と言い始めた。
「どうしたの?」
「だって今日私達残業だったじゃないですか。
もう残ってるの私達だけだったのに・・・」
言われてみると変だなと先輩も思ったが、
たまたま自分達が気付かなかっただけなんじゃないかとも思えた。
だが後日、また帰りが遅くなってしまった日のこと。
この日最後まで残っているのは先輩一人になってしまったという。
急いで帰ろうと通路を急いでいたが、寒さからか急に催してしまい、
あの暗い通路の前で立ち止まった。
この前変なことがあったし、どうしようかと一瞬迷ったが、
家まで我慢できる自信がなかった先輩は思い切ってトイレに入り、
電気をつけた。
あの奥の個室はまた閉まっていたという。
いいようのない気持ち悪い感覚が先輩を襲った。
あ、これはヤバい。
そう思った次の瞬間、
気付いたらトイレを飛び出して逃げていたという。
その後先輩は同僚達にこのことを話すと、
皆驚いたような顔をして、
「あんたまだ知らなかったの?あそこは幽霊が出るって噂になって、
ずいぶん前から閉鎖されているのに」
その後先輩が恐る恐るトイレの前に行ってみると、
廊下の隅の方に「閉鎖中」と大きく書かれた紙が
クシャクシャになって落ちていたらしい。
それ以来違うフロアのトイレを使ってる、
あんたもそうしなさいよと先輩は、
今季の新人である私に語った。
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