これは私が小さい頃に祖父母の家で体験した事なのです。
この祖父母の家というのが、
北海道の南の方のとある片田舎にありまして、
自然の中で遊ぶのが好きだった当時の私は、
夏休みの時などは両親にせがんで連れて行って貰ったものです。
なにせ、家を出れば正面には川、裏手の道を少し行けば山の中。
腕白小僧が喜ばない筈はありません。
草をかき分けては虫を探し、
沢の石を避けてはザリガニを探していました。
ただ、あまり奥までは入った事がありませんでした。
なにせ、北海道の山です。
山の奥まで行けば、普通にヒグマが居ますからw
もっとも、ヒグマよりも怖いものに遭ってしまったんですが……。
あれは、小学3年の夏休み祖父母の家に遊びに来ていた
私はいつもの様に虫を探していました。
とは言え、何度も入った山の中。
慣れきってしまった景色に若干の飽きも有ったのでしょう。
普段とは違う獲物を探して、草木をかき分けていました。
普段よりも少しだけ奥へと向かって……。
と言っても、沢の向こう側のちょっとだけ離れた位置。
少なくとも普段遊ぶ場所が目に入る位のところです。
子供心に自分のテリトリーから逸脱する事に
不安があったんだと思います。
そこで草をかき分けたり、木の上に登ってみたり、
虫を探していました。
まぁ、一時間程もそうしていたでしょうか。
気づくんですよね、ちょっと行った位じゃ、
虫なんて代り映えするわけないんですよ。
大き目の石に腰かけて、諦めて戻ろうかなんて、考えていた時です。
いつもより大きな影が目の前に現れたんですよ。
虫じゃありません。もっと大きなモノ。
私は熊だと思いました。なんて言うか獣臭かったのです。
私は恐怖のあまり動けずに居ました。
どうしようどうしようと、そんな事ばかり考えていたと思います。
やがて、それは私の前へと姿を現しました。
熊ではありませんでした。もっと、怖いものでした。
形は人とそっくりです。
ただ、どことなくパーツが歪なんですよね。
手の指が極端に長くて地面に付きそうだったり、
目が極端に吊り上がっていたり、何より口がなんて言うんでしょう。
妙に捩じれてるんですよ。体は毛むくじゃらで、そして獣臭い。
そいつが、私の目の前に現れたんです。
私を見ているんです。わけのわからないモノが。
動けませんでした。
そいつは私に近づくと、歯をガチガチと鳴らし始めました。
ずっと、ずーっと。永遠に感じました。
実際には数分、いえ数秒だったのかもしれませんが。
こちらを見ながら延々と、歯を鳴らしています。
恐怖以外の何物でもありませんでした。
いつの間にか気を失ったんだと思います。
起き上がり辺りを見回すとそいつの姿はありませんでした。
夢だったのだろうか?と、硬い地面の上に寝転がっていたせいか
痛む体を動かして、何とか祖父母の家に帰りました。
泥だらけの私にお風呂を沸かしてくれた、
祖父とともに脱衣所に入った時です。
服を脱ぐ私を見て、祖父が驚きました。
「お前、どうしたんだ。その噛み跡……」
私の肩には歪な歯形がついていました。
その後は、泣き喚いた私を祖父が宥めたり、
祖母が傷跡に効くと言って軟膏を塗ってくれたり、
何事もなく帰路につきました。
結局、あれが何だったのかは今でも解りません。
次に行った時に祖父にも聞いてみましたが、
知らないと言っていました。
傷跡も何日か経った頃には消えてしまいましたし、
体調がおかしくなったり、事故にあったという事もありません。
ただ、今でもビクッとしちゃうんですよね。
歯がカチカチなってるのを聞くと。
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