かつて、私の家には日本人形が数体あった。
よく覚えているのは、
ぷっくりした男の子が鯛を抱えているものと、
おかっぱの女の子が色鮮やかな着物を着ている日本人形。
どれもケースに入っており、
お祝いで買ったかもらったかしたもののようだった。
私は女の子の日本人形が嫌いだった。
子供心に、まるで子供に見えない人形だと思った。
左右の均等がとれすぎていて綺麗なのに不気味だった。
人形が置かれているのは母の支度部屋の箪笥の上で、
私は見る機会は少なかったがその部屋が嫌いになった。
支度部屋には鏡台とドライヤーが置かれていて、
お風呂上りには髪を乾かしにそこへ行く。
中学生ともなると1人で行くのが当たり前だが、
私はその部屋、その人形が気持ち悪くて堪らなかった。
人形に背を向ける形で髪を乾かすのだが、
部屋の中に誰かいるように思えて仕方なく、
視線を感じる気がしていた。
ある時、鏡越しに人形が目に入った。
うっすらあいた口の中がモゾモゾと動いていた。
「・・っち、っち」と時計じゃない何かが聞こえる。
びっくりして振り返ると口なんて動いていない。
それから何度か同じことがあり、
程なく髪をバッサリ切ったら声はしなくなり、
気配も小さくなった。
大人になってから、あの人形には魂があるのだと思った。
そして「こっち」と呼んでいるのだと。
髪を切って声が聞こえなくなったのは
私が女の子に見えなくなったからではー。
母にあの人形は何かあるとずっと言い続けているいるが、
母には実感がないらしい。
思えば母はずっとショートカットの人だ。
結婚して家を出た今でも、あの部屋と人形は怖くてたまらない。
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