私の家は、お墓が二つあります。
ひとつは先祖代々のお墓、
もうひとつは、勝男さんという人のお墓です。
勝男さんは、私の父方のおじいさんの弟にあたる人で、
まだ若い頃、戦時中に肺結核で亡くなった人だそうです。
たいへん頭が良かったけれども、病弱で変わり者だったそうです。
遺言として「自分一人の墓を作って欲しい」と言ったのだそうです。
なぜそうしてほしかったのかは、誰も知りません。
勝男さんの容姿はお父さんにかなり似ていたそうです。
ある夏休みの朝、私は二階の自室で宿題をしていました。
暑かったので、窓もドアもすべて開けていました。
そうすると、「●●ちゃん!」と
私を呼ぶお父さんの声が階下からしました。
お父さんに呼ばれることは珍しいので、
なにごとかと思って階下へ降りていくと、
お父さんはいません。
台所にいたお母さんに、
「いまお父さんに呼ばれたんだけど、お父さんは?」と聞くと、
「お父さんなんかいるわけないでしょ。とっくに仕事行ったわよ」
と言われてしまいました。
夏休みになって曜日感覚がなくなってしまっていたのですが、
その日は平日でした。
声が聞こえた階段下のすぐ横には和室があって、
仏壇があります。
ちょうどお墓参りに行ってきたばかりでした。
その後も、洗面所(背後が和室)で
歯を磨いているときに気配を感じたり、
寝ているときに黒い顔の人にのぞきこまれたりと、
そこまで怖くはないけど、
なにかちょっと背筋が寒くなるようなことを経験しました。
お父さんに似ている声の持ち主なので、
先祖の誰か、もしかしたら勝男さんではないか、
と思っています。
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