これは、看護師の先輩から聞いた話です。
その先輩は集中治療室という、
特に重症な患者さんが多くいる科で働いていました。看護師になって2年目となったその先輩は、
自分でもできることが増えて嬉しいと思う反面、
やはりどれだけ手を尽くしても
亡くなってしまう患者さんがいることに
ジレンマを抱えていたそうです。そんな中、彼女の担当である
患者さんが亡くなってしまいました。とうとう一度も目を開ける事なく
亡くなってしまったその患者さんが、
彼女にとって初めての担当患者さんだったので
とても落ち込んだそうです。そんな気落ちしている時でも仕事を休むわけにはいかず、
夜勤のシフトだったため先輩は職場に向かいました。その日は特に忙しくもなかったので、
仮眠をとることができ、
先輩が仮眠室で仮眠をとっていると
何か気配を感じたので、
緊急入院の患者さんでも来たのかと思い
起きようとしました。しかし、体が動かず目だけ扉の方に向けると、
少しだけ開いたその扉の隙間から、
虚ろな目がこちらを見ていました。怖すぎて声も出せなかった先輩。
さらに体が動かないので
しばらくその目と視線が合ったまま時が経ちました。すると設定していた携帯のアラームが鳴ったと同時に
体の拘束がとけたため、急いでアラームを消して
扉のほうを見るとその虚ろな目は消えていました。その扉に近づきたくは無かった先輩ですが、
そこからしか仮眠室から出る方法は無かったため
恐る恐る扉を開けました。しかし、そこにはもう何もおらず、
早く集中治療室に戻って交代をしようと
扉を閉めようとした時にはっきりと見てしまったのです。その顔は先輩が初めて受け持った
患者さんにそっくりだったと言います。すぐにその場から立ち去って、
このことを相談しましたが、
真剣には取り合ってもらえず、
仕方なく恐々仕事を再開したそうです。その日はいつもよりも朝が来るのが遅く感じたそうです。
一体その患者さんは何を伝えたかったのでしょうか。怖いと同時に申し訳ない気がする、
とその先輩は語ってくれました。


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