たまたま旅行先で見つけた古本屋に入った時のことです。
その店は建物が古く入り口がガラスの引き戸になっていました。
当たり前なんですが来た時には何事もなく入れたんです。
でも帰ろうと思って入り口の方に顔を向けたら外からぺたり、
と黒い人の形をしたものが引き戸に張り付いてるのに気づきました。
成人男性ぐらいの体格で全身をひらがなの「て」の字といえば伝わるでしょうか、
体操でもしているかのように「て」の形のポーズを取ったままそこにいるのです。
最初は人かと思ったのですが
(それもそれで怖いですが)
まじまじと見つめていると顔になにもない
というか凹凸すらないのに気づきました。
マネキンを黒いペンキなんかで
塗りつぶした感じで、そこまで見つめてしまってから
これはやばいやつだ、と目を逸らしました。
他の客やレジの店員が気づいてないのがさらに不気味、
というか嫌でした。
見てはいけないものを自分だけが見てしまった感じで。
しかし入り口に張り付いているとなると困りました。
出入り口はそこ1つだから。
そんなよくわからないもののそばを通る勇気はありませんでしたし。
しばらく本棚を眺めるふりをしながら
どうにか消えてくれと祈っていたのですが、
元々遅い時間に来たこともあって
閉店時間の放送が流れ始めてしまって。
店員も店の清掃を始めようとしていて、
もう仕方ないので覚悟を決めて入り口を見たんですね。
消えてくれてたらいいなって。
「て」のやつ、引き戸の内側に張り付いてました。
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