雨の降る夜、彼は駅から家までの道を急いでいた。遠くに赤い傘を持った人影が見えたが、近づいても顔が見えない。すれ違う瞬間、傘の下からかすかに笑い声が聞こえ、背筋が寒くなった。振り返ると、人影は消えていたが、赤い傘だけが道に転がっている。
拾う気にはなれず、そのまま帰宅したが、翌夜、同じ場所でまた赤い傘が現れ、今度は傘がゆっくりこちらに近づいてくる。走って逃げたが、傘の影が追いかけてくるように感じた。ある晩、家に着くと、玄関にその傘が立てかけてあり、中から笑い声が響いた。慌てて捨てたが、次の夜にはまた戻っていて、今度は傘が開いたまま部屋の隅に立っていた。
近所に聞くと、昔、その道で赤い傘を持った女が消えたという噂があった。彼は今、雨の夜に外に出るのを避けているが、窓の外で傘が揺れる音が聞こえる。


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