それは、私が3歳か4歳のころの話です。
私の家には観音開きの襖があり、
小さい頃そこへゴムボールをぶつけて、
一人キャッチボールをするのが好きでした。
ある日、いつものように一人キャッチボールをして
遊んでいると、襖がゆっくりと開きました。
そして入れてある布団の上に、
白いひげの穏やかな表情の老人が正座しています。
いや、正確には姿は見えません。
気配だけがするのです。
私は得体の知れない気配であるにも関わらず、
まったく恐怖は感じませんでした。
穏やかな表情でニコニコ笑っているその人に、
安らぎさえ感じていました。
その老人は、気まぐれに何度か現れてくれました。
何も言わず、ニコニコと私の方を見ているだけです。
高校生のころ、その家を取り壊して
新しい家に引っ越すことになりました。
そう言えば、とその不思議な体験のことを思いだし、
小さい頃のその思い出を母に話してみました。
母は「えっ!?」と絶句して、目頭を押さえました。
その押し入れには、私が生まれるのとほぼ同時に亡くなった、
祖父が使っていた布団がしまわれていたそうです。
生前の祖父の写真を見せてもらい、
私が小さい頃に見た老人だと確信しました。
自分と入れ違いで生まれてきた孫に
会いに来てくれていたのかもしれません。
そして母は、そう言えば私が小さい頃
「おじいちゃんに会った」と不思議なことを言っていた、
と言う話をしてくれました。
怖くなかったはずです。
私は最初っから、その老人が会ったことはないけど、
自分のおじいちゃんだってことに気が付いていたのですから。
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