一人旅が好きで、ふと思い立って
温泉旅館や観光地へ行く事があります。今まで何のトラブルもなく旅をしていましたが、
一つだけ怖い体験をした事がありました。それはある冬の事、いつものように一人旅に出て、
その日泊まるホテルへチェックインしに行きました。しかし予約ミスで出来ておらず、
やっと探してある一軒の古びた旅館を見つけたのです。その旅館は2階建てで、
私が通された部屋の奥には大きな押し入れがありました。押し入れの中には敷き布団が入っていると思ったのですが、
開けても真っ暗な空間があるだけでした。荷物入れかな?と思いつつ襖を閉めると、
中からカタン、と小さな物音が聞こえたのです。驚いて振り返りましたが、開ける勇気はありませんでした。
モヤモヤしつつも夜になり、お風呂に入って部屋に戻ってくると、
押し入れの襖が少し開いていました。どうしてだろうと思って目を凝らした瞬間、
隙間からこちらを覗く目に気づきました。ヒッ!と後ろに飛びのくとその目は消えてしまったのですが、
白く濁った人間の片目がこちらを覗いていた状況に戦慄したのでした。恐くて硬直していると、
また押し入れからカタンと音が聞こえたのです。何か物を落とすような音で、それが断続的に聴こえてきます。
カタン、カタン、カタンとどんどん大きくなってきて、
急にガタッ!とそれまで以上の音がしたかと思うと
襖がガタガタ揺れ出しました。その振動と共に段々と隙間が開いてきて、
その隙間からあの白い目が…。ここで記憶が途切れたようで、
気づけば朝になっていたのです。私は部屋の隅で布団もかぶらず気を失っていました。
チェックアウト時間が過ぎているのに
ロビーに来ないのを不審に思った旅館の方が、
見に来てくれたのです。声をかけられ、飛び起きてすぐ押し入れを見ましたが、
隙間なんて開いていませんでした。真相を知るのが恐くて旅館の方には誤魔化しましたが、
部屋を出る瞬間振り返ると、また隙間が開いていて
ゾクッと寒気が走りました。


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