私が、ピアノ教室の先生から聞いた怖い話です。
先生が20代の頃、遊びといえば、
もっぱら海で仲間と泳いだりすることだったそうで、
暑い夏のその日も、いつものように海で仲間と泳いでいたそうです。
さんざん遊び、辺りが薄暗くなってきたので、
そろそろお開きとなり皆海辺に上がりました。
すると、仲間のAさんが浮き輪を忘れたと言い、
一人で海へ戻ってしまいました。
先生と他の仲間は少し嫌な予感がしましたが、
止める間もなくAさんは猛スピードで泳いでいき、
浮き輪の方へ。
そして、浮き輪にしがみつき、
こちらに向かって手を振ってくれました。
既に日が落ちて暗いため、海辺の仲間はホッと安堵し、
手を振り続けているAさんをケラケラ笑いながら写真に収めました。
ところが、何分経ってもAさんはこちらに戻る気配がありません。
手を振りながら上下に揺らしているのです。
仲間の一人がボソッと、
「もしかして、Aさん、溺れてるんじゃないか?」
辺りは騒然となり、急いで警察を呼び、
救助に向かってもらったそうです。
しかし、その後Aさんは病院で亡くなってしまいました。
私は、ふと気になる事を聞きました。
あの写真は現像したのかどうか。
先生は「あれはね…」と言い、
曇った表情で教えてくれました。
写真に映っていたのは、
海の中へ引きずりこもうとしているように
Aさんの首や体を掴んでいた、無数の長い手だったそうです。
そして、最後に先生は、
あの時Aさんは私達にピースしていたのではなく、
無数の手に掴まれ溺れもがいて助けを求めていたんだよ。
と、当時を振り返り悲しげに語ってくれました。
コメントを残す