私が大学生の時にアルバイトしていた塾での怖い体験談です。
当時、幽霊が出ると有名だったH教室という場所がありました。

H教室の噂を聞いたのは大学2年生の冬、
部長と呼ばれる先生からでした。

生徒からも「部長(と呼ばれていた)はヤクザだから、怒らせたら怖い!」
と恐れられている先生です。

そして講師達からはその何百倍も恐れられていました。

講師としての実力はもちろん、
何か甘さがあるとガッツリと怒鳴られます。

その迫力は、生徒達の噂もあながちウソではないのでは、
と思う程でした。

そんな部長と、たまたま別教室でペアを組む事があり、
その帰り道でH教室の話を聞きました。

もう何年前の話になるだろう。
その日は若い男の先生と2人でH教室に入った。

授業を終え、報告書や掃除といった雑務を終えて、
教室を出るのは23時近くなっていた。

3階建ての建物を上から順番に点検しながら電気を消して、
最後に入口の玄関を鍵を閉めた所、もう一人の若い先生が、
上を見上げて不思議そうにつぶやいた。

あれ、部長。2階にまだ生徒いるかもしれないです
一緒に2階の窓を見上げると、確かに一瞬女の子がこちらを見ていた

2人とも見たから間違いない。
「隠れていたのか?まったく面倒な・・・」

そこで2人でもう一度鍵を開け、1階から順番に電気をつけ、
3階までチェックしながら上がっていったが、
やはり生徒は残っていなかった。

「見間違いかもしれません、すみません・・・」

若い先生は申し訳なさそうに謝ったが、
2人とも見たのだからそれも考えづらい。

不思議に思いながらも再度鍵を閉めた。

「まあ周りの家の光やなんかが反射したのかもしれないしな。
さて、帰るか。駅まで送っていくから乗れよ」

車のドアを開けて顔を見合わせたその一瞬、
俺達はなぜかもう一度2階を見上げた。

2人で見上げた2階の窓からは、やはり女の子がこちらを見ていた
俺達はもう教室に入らなかった。

駅までの車の中はずっと無言だった。
それで部長の話は終わりでした。

そして大学3年生の秋、それまで担当していた教室から、
H教室に移る事となりました。

もちろんあの部長の話を忘れた訳ではありませんでしたが、
いつももう一人の先生が先に教室に入っていましたし、
そもそも私自身、怖い話は苦手でも実際に心霊体験をした事が無かったので、
それ程気にはしませんでした。

ところがある日、最初一人でH教室に入り、
途中からもう一人の先生が合流するという形でシフトが組まれていました。

まさかの一人きりです。

ただ、私が教室に入るのは昼のちょうど12時頃で、
しかもこの晴天の中です。

状況としてはお化けに会うような要素はありません。
そう自分に言い聞かせて教室に向かいました。

講師は教室に着くと、
必ず到着連絡の電話を本部に入れなければいけません。

「お疲れ様です、理科のSです。H教室到着しました。」
電話が終わり、授業準備をしようと教材を出した時でした。

たったったっ・・・』3階の床を何かが
私のすぐ真上から向こうに走っていく音がしました。

その音は、授業前に3階で生徒がいる時によく聞く音でした。

一瞬、いつもの音かと思ったのですが、
その瞬間胸のあたりがギュっと固くなり、
それを合図に心臓の鼓動が速く大きくなります。

誰かいたっけ・・・

そう呟きますが、3階はもちろん、
この建物に自分しかいない事は来た時に自分で確かめています

髪の毛を引っ張られるような、
ぞわっとした感覚
が頭から尾てい骨の辺りまで走ります。

まず最初に思い浮かんだのは、カラスの足音でした。

自宅の部屋がそうなのですが、
カラスが天井を歩くと意外と音が聞こえます

しかし、カラスの足音はもっとカツカツと細い鋭い音になりますし、
何よりいくら音が響いたとしても、3階の更に上の
屋根を歩く足音が聞こえる訳がありません。

たんたん・・・たたたっ

今度は向こうから私のすぐ真上まで戻って来る音です。
明らかにカラスの重さではありません

換気扇から入る外の音かとも思い、
窓から道路を見下ろしてみましたが、
子供は見当たりませんし声も聞こえません。

たん、たんたたん
スキップしたような音が聞こえてきました。

全神経を集中して耳を傾けていたため、
3回聞こえた中で一番はっきりと、大きく聞こえたように感じました。

・・・その後はすぐに本部へ電話で報告し、
気分が落ち着くまでずっと本部の人と話し続けていました。

今思い出すと、本部の人が「冗談だろ」などと言わずに付き合ってくれたのは、
過去にも同じような事があったからかもしれません。

実はそこの建物は、1階が店舗、
2,3階が住居になっているタイプの建物を改装して使っていました。

もしかしたら、女の子はその建物が住居だった時から
住んでいるのかもしれません

もう何年も前の話になりますが、
今でも忘れられない体験です。