その日、ある女学生が、
自転車を押しながら川辺を歩いていた。とうに日は暮れている。
部活動が長引いたために、
帰るのが遅くなってしまったのだ。周囲には街灯がないので、
自転車に乗ってしまうと事故を起こしてしまいそうで
危険だと判断した彼女は、暗い中、
足元に注意を向けながら歩みを進めていた。ふと、何かの物音を聞いた気がした彼女は、
後ろを振り返った。確かに音が聞こえたはずだが、
人どころか小動物一匹いる様子はない。彼女は聞き違いだったのかもしれないと思い直したが、
どこか腑に落ちない気持ちを持ったまま、再び歩き始めた。すると今度は、はっきりと、音が彼女の耳まで届いた。
ガシャン、という金属がこすれあう重い音が、
彼女が一歩進むたびごとに、後ろをついてくるのだ。立ち止まると音も止むのだが、また歩みを速めると、
なんとその音も同じ歩幅と速度で追いかけてくるではないか。彼女の心臓は緊張のあまり早鐘を打ったようになり、
自転車のハンドルを持つ手には冷や汗が滲んだ。彼女はしばらく呼吸を整えると、意を決して自転車に飛び乗った。
最早、暗くて危ないなどと言ってはいられない。飛び乗ると同時にペダルを勢いよく漕ぎ出し、
その場を走り去った。自転車を走らせている最中も、
背後から何かが襲い掛かってくるのではないかという
不安と恐怖はこびりついたままだった。結局、謎の音が追いかけてくることはなく、
彼女は無事家へとたどり着いたが、
それでも生きた心地のしない夜を過ごした。次の日の朝、彼女は昨晩の出来事を、友人に話した。
一通り話を聞いた彼女の友人は、神妙な面持ちで口を開いた。彼女が歩いていた川辺では、
その昔、戦で多数の死傷者が出たのだという。鎧を身に着けた武士が、川一面を埋め尽くしたほどだそうだ。
そう、あのガシャンという重い音の正体は、
鎧を身にまとった武者の霊だったのである。


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