お盆の海で釣りをすべからず

昔から漁師の間では
お盆の海で釣りをするな」という言い伝えは
比較的メジャーな話かと思います。

私は友人と休日が被った日によく釣りに行くのですが、
その年はたまたま2人とも夏のうちに休暇がとれる日が
お盆と重なりました。

友人
「よく考えたら休みがお盆と重なるけど、
昔から言われていることだし、
釣りに行くのは辞めた方が良くないか?」


「夏に一番釣れるっていうのに、
釣りに行かないなんて選択肢があってたまるか。
宅急便で遺骨を送るようなご時世にそんな迷信気にしてどうする?」

と言った具合に、
どうしても夏の釣りをやりたかった私は
お盆に釣りに行くことに及び腰な友人をたしなめて、
2人で夏にしばしば釣りのために訪れる
ふ頭近くの旅館で1泊する釣り旅行に行きました。

夕方頃から夜にかけて釣りをするつもりで、
旅館で友人が仕掛けを作っている間、
馴染みの釣り具屋に餌を買いにいったのですが、
その日は店には自分たち以外の客が全くいませんでした。

オマケにいつもは愛想のいい馴染みの店主から

お盆に釣りに行くつもりだったら辞めとけよ?。ロクな事ないから

と釘を刺されもしました。

無論、仕事との兼ね合いもあり、
その程度のことで計画を変更することもなく、
店主から言われたことも友人に伝えることもなく、
いつものふ頭で向かったのです。

ふ頭には私と友人以外の釣り客はいなかった

お盆は大体大潮と重なることが多いのですが、
この日は大潮であったためか、
思いのほか釣果は良好でした。

夕焼けの中、迷信を気にしなくて良かった
とかいう考えが頭をよぎった矢先に友人が

あれはナブラだろうか?

と言い、沖の方を指しました。

友人が指をさす方を見ると、
ふ頭からかなり離れた沖にナブラと思しき
水しぶきが上がっています
が、
どうも青物が跳ねているのか
時折白いモノが海面から出たり沈んだりしていました

ついでに説明すると、ナブラとは、
カツオとかブリなどのような魚を食す魚が
小魚を追い詰めているときに出来る水しぶき
です。

私は、ナブラかどうか確認しようと思い、
双眼鏡で水しぶきの方を見たことを
今でも後悔しています

双眼鏡から見えたのは、
無数の白い手のようなモノが
海面を出たり沈んだりしている光景
でした。

それを見ながら、
自分の血の気が引いていくのを実感しました。

段々と白い手の群れが
こちらに近づいてくるように感じたからかも
知れません。

何が見えた?

と私の様子が普通じゃないことに気づいて
問いかけてきた友人に

見ないほうがいい

と一言返した私は、夜釣りの時間まで待つこともなく、
釣り道具を片付け始めました。

友人は当初お盆に釣りに行くことを
躊躇っていたこともあって察したのか、
双眼鏡を私から取り上げることもなく、
私同様に釣り道具の撤収を始め、
2人ともそそくさと旅館へ帰りました。

仮にあのまま釣りを続けていたら
どうなっていたのだろう
と思うときもありますが、
友人も私もそれ以降、お盆に釣りに行くことは
ありませんでした。