昨年まで住んでいた家での体験です。

結婚する半年ほど前から当時付き合っていた彼氏現在の夫)が一人暮らしをしていたアパートに私が転がり込むような形で二人での暮らしをスタートさせました。

まだ子どももいなかった私達は、結婚前の準備等で慌ただしくしながらも浮かれ気味で、とても幸せな毎日を送っていました。ただ、日が経つにつれ日常生活で少しずつ気になることが増えていくようになりました。

私達が住んでいたアパートは築60年のエレベーター無し5階建てのよくある団地の風景といった雰囲気で、周囲には同じようなアパートが多く立ち並び、アパートとアパートに挟まれるような形での物件でした。

住み始めて最初の頃、ふと窓から外を眺めていると、隣の棟の5階部分の家2軒が空き家になっていました。ふと気になってもう一方の隣の棟を見てみると、先程と同様5階部分の家2軒が空き家の状態でした。

注意を凝らして見てみると、その先(隣の隣)の棟の5階部分2軒も空き家です。何となく心のどこかで「あれ?」と小さな疑問を持ったことを覚えています。ですが「今時エレベーターも無い物件に住む人は少ないはずだ」と思い、疑問に思ったことすら忘れていました。

あっという間に日々は経過し、住み始めて半年が過ぎる頃には私達は結婚し、私のお腹の中には既に赤ちゃんが宿っていました。

仕事をしていた期間、家にいる時間は寝る時間も含めてわずか6時間ほどで、特段気にすることも無かったのですが、産休に入り家にいる時間が多くなると途端に気になり始めたことがありました。それは「音」です。

「パチッ!」という感じのラップ音で、最初は家電製品からする音か、朝晩の気温の変化によってうまれる音だと思っており、音がする時間帯も午前中のみでした。

ですが音は日を追う毎に大きくなり、音がする回数も1日のうちで何度も、最後のほうでは朝から晩までずっと鳴っているようになりました。

妊娠後期は思うように身体が動かない日も多く、実家の母に家事を手伝いに来てもらうこともありました。母が私の家に来る際、毎度必ずと言っていいほど母は間違って他のアパート棟の5階のインターホンを押してしまうということがありました。

おっちょこちょいの母ですので、そういったことがあっても当たり前だ、くらいに考えていたのですが、たまたま近所に実家がある友人が遊びに来てくれることになったときも同様に他の棟の5階のインターホンを押してしまったようです。

周辺の土地勘は私よりあるのにおかしいな、とその時はじめて感じたのを覚えています。そして明らかに「おかしい」と感じたのは、訳あって物件を持つ不動産業者に来宅してもらう用事があったときのことです。

私の携帯に着信があり、電話にでてみると「留守のようでしたのでお電話させていただきました」とのこと。ちなみに私はその日家から一歩も出ず、むしろ不動産屋さんの来宅にすぐ対応できるよう万全の状態で待っているかたちでした。

何より自分が感じていた違和感に確信を持ったのが、主人から昨日見た夢の話をきいたときのことでした。主人の夢の内容は、いつも寝ている部屋で目を覚ますと枕元に誰かが立っているというもの。主人が声を出そうとするものの声は全く出ず、身体は1ミリも動かせない状態で苦しかった、と青ざめた顔で私に話をしてきました。

違和感から不安、恐怖へと変わっていった私は出産を直前に控えていましたがすぐさま引越しすることを決めました。

退去する1週間前ほどになった日のことです。朝、目を覚ますと、「バチバチバチバチバチ!」とこれまでで一番大きなラップ音が連続して鳴っていました。さすがに腹が立ってきた私は、これまで感じてきた怒りも込めて「いい加減にしろ!もうすぐ引越しするから関わるな!静かにしろ!」と大きな声で叫びました。きっとご近所の方は驚かれたと思います。自分でもそんな大きな声がでるのかと驚いたほどです。

音は、無くなりました。あれだけ毎日鳴っていた音が途端に無くなったのです。退去するその日まで一切音がすることはありませんでした。

本来私はそういったことを感じ取る感覚は鈍感なほうですので、今でもあの「音」が何だったのかはよくわかりません。しかし何らかのメッセージが込められていたのではないかと思っています。