夏には多くの観光客が集まる、海水浴場を避けて男女がデートする場所が人気になることがあります。海岸が砂浜であるのに対し、観光地である奄美大島のその場所は丸い小石が敷きつめられているようにしていました。

観光地になっていないのは、砂浜のように寝そべれないから。

デートは夕暮れとともに始まり、ロマンチックなムードにもなると浜辺の手前にある芝生へと腰を下ろしたりしておしゃべりに花が咲きます。そんなとき、あるカップルの女性が浅瀬の方を歩く女性に気がついたのでした。

その女性の格好はというと、リュックのような白い荷物を背負っていたのだそう。こんな時間に泳ぐのは不思議だし、海水浴客にしては少し様子がおかしく感じられたそうです。

カップルは「自殺ではないの?」と心配するのですが、しかし小石だらけの浜を歩いているにしては、足音がしないのです。おそる、おそる海へと視線を向けると浅瀬に腰まで浸かった女性が白い袋を背負ったままでこちらを睨んでいたのでした。

その女性は何度も波をかぶっているにしては、髪がまるで濡れていないのでした。白目の部分が真っ赤に血走り、射竦(いすく)めるようなまなざしでした。

今女」は、奄美大島に伝わる幽女で昔でいえばむかしの家の奉公人でした。その家の女主人に嫉妬され、酷い虐め(いじめ)を受けて殺されてしまったのでした。それからその女性は怨霊となり今も彷徨っているのだそうです。

現在も一部では、イマジョの存在が信じられていて、その名前を口にするのを厭う住民も少なくないそうです。