小学校最後の年の夏、1人の女の子が転校してきた。こんな時期に珍しいな、とは思ったがそれ以上にその子のことが特に気になった。白い肌、くりっと大きな瞳。とても可愛らしかったのを覚えている。しかもその子は僕の隣に越してきたのだと言っていた。

転校してきたばかりで友人もいず、本を読んだり絵を描くのが好きなようだった。だから僕は近所のよしみで、少しでも仲良くなれればと思って毎日声をかけた。それからは日々の出来事や、違うクラスの男子が気になること、クラスの女子が意地悪をしてくること、彼女のお母さんがよくヒステリーを起こし、叩いてくるといった深い話まで話せるほど親密な仲になった

卒業を控えたある日、彼女はパタリと登校しなくなった。まあ、登校しなければならない日にちはもう少ないし、仕方ないかと思ったが、卒業式は出ようと誘いに彼女の家を訪ねたところ別の理由が発覚した。彼女が好きだった男子の取り巻きの女子たちに、いじめられていたのだ。教科書を隠すとか、そんなものじゃなくもっと陰湿で酷いものだったと彼女は話した。具体的には話せないくらい怖かった、だから同じくらい辛い気持ちを味あわせてやりたいんだ、と。僕は相槌をうって、彼女の恨みを懇々と聞いていた。

その後中学に入り、彼女の素行は荒れていった。綺麗な黒髪も見るも無残な派手な色に変わり、堂々とタバコを吸う。ろくに家にも帰らず、夜遊びを繰り返しているとも噂で聞いた。家庭環境も悪くなったようで、お母さんのヒステリックな叫び声や口喧嘩の声、何か物が割れる音、色々聞こえてくるくらいだった。

そして、警察沙汰になったことあり、彼女の家の前にパトカーが止まっていた。この頃から、彼女の家は近隣住民との折り合いが悪くなり、中傷をされたり、ポストにネズミや鳥の切り刻まれた物が入っていたりと、悪質な嫌がらせをされるようになった。そんなこともあり、僕の家も近隣同様、距離を置くようになった。

高校に入ってからも彼女の素行は変わらなかったが、ある日を境に引きこもるようになった。年齢以上に見えるほどになった彼女のお母さんに久しぶりに話をきくと、彼女は部屋からは極力出てこず、一日中布団の中で過ごすといった状況だった。ご飯の時も出てこないため、部屋の前に置いておくんだそうだ。

僕は久し振りに彼女に会ってみようと思い、扉越しに声をかけた。すると勿論、拒絶する言葉を投げかけられた。それにも怯まず、僕は毎日学校帰りに彼女の部屋の前で話しかけることを続けた。そんなある日、返事が聞こえた。こんなはずじゃなかった親と喧嘩した、とポツリポツリと自分のことを話してくれるようになった。

悪い連中とつるんでいたこと、その中の1人と関係を持ち、妊娠したが相手が逃げてしまったこと、母に相談したら今までにないくらいのヒステリーを起こし、何度も何度も打たれたこと。子供はいつの間にか流れており、死を考えたこと、色々深い話をしてくれた。僕は昔のように相槌をうち、懇々と聞いた。徐々に彼女は元気を取り戻し、昔のような無邪気な笑顔を見せてくれるようになった。彼女の母親も泣きながら僕に感謝を告げていた。

そんなある日、彼女は通っていた高校から飛び降りたのだ。一命はとりとめたものの、打ち所が悪く、腰から下の神経をやられてしまい、下半身麻痺となった

病室で彼女は、母や僕に迷惑をかけてしまい、申し訳なさが重くのしかかり飛び降りたのだという。僕はそんなことない、と彼女を慰めた。慰めながら、告白をした。色んなことがあったけど、一目見たときから気になってたんだ、と。彼女は泣きながら私でいいの、こんななのに、と何度も聞いてきた。聞かれるたびに何度も頷いた。

君が泣きながら母親のヒステリーの対象になり、叩かれていると話した時も、小学のクラスの女子達に好きな男子の名前を伝えた時も、君がいじめられて辛い思いをしたと話してくれた時、君の家のポストにネズミや鳥を切り刻んだ時、引きこもってボロボロの状態になったのを見た時、腰から下の感覚が失せベッドに横たわるしかできない今も、ずっとずっと君のことが大好きだ

これでようやく君は完全に『僕の彼女』