漏れ出す光のまぶしさに、体を大きく伸ばして、布団から這い出した。
カチカチに固まったからだをほぐしながらキッチンへと向かう。

―板張りに直接布団を敷くのはやはり体に悪い…。

いつぞやテレビで見た、スプリングの効いた
分厚いマットレスのベッドには憧れるが、
残念なことに自分の部屋にはそんなベッドを置く場所がない

もちろん、財布にもそんな金はないのだが。

貧乏人は貧乏人なりに謙虚に暮らそう…と
マグカップと食パンを取り出す。

朝起きてサクサクのトーストと
煎れてから少したったぬるめのコーヒーが毎日の日課だ。

いつものように焼き立てのトーストにかじりつく。

あれ…メーカーが変わったのかな?
いつもと味が違う気がする

前までの方が、ミミがサクサクでおいしかったのにな。
まあ、いいか。贅沢を言う余裕はない

いつものように身だしなみを整えて、
少しよれた靴を取り出して玄関を出る

ここでの暮らしもずいぶんと慣れてきた

大通りに出る道は少し複雑で当初は迷うことも多かったが、
今は迷わずに行ける。

むしろ今はその複雑さが一目につきにくい
静かな環境を作っていて、とても気に入っている。

「おはようございます、今日は早いんですね。」

ふと、隣から声をかけられた。声をかけてきた、
いかにもセールスマンな青年は、お隣の住人だ。

ネクタイを緩めて、今帰宅したところらしい。

「おはようございます。今帰りですか、お疲れ様です。
今日はちょっと早めに行かないと行けないんですよ。」

今日も一日働いてきたであろう青年に労いつつ、
当たり障りなく返す。

男同士ということもあり、世間話もそこそこに
「じゃあ、また。」と別れようとした。

「そういえば、もうすぐ引っ越しされるんですって?」

「え?」

青年の言葉に振り返る。

「この間の休日、彼女さんとばったり会いましてね。
聞いたんですよ。来月にでも引っ越すとか。」

「ええ、まあ。」

彼氏さんと休日がなかなか合わないから
準備が大変
だと言っていましたよ。シフト制って大変ですね。」

「…。」

「それにしても物騒ですよね。
不審者が家の中にまで入ってきてたんでしょう?
全く警察は何してるんだか…すみません、長々と。では、また。」

青年は軽く会釈して自宅に入っていった。
少し茫然としたが、のんきに立っている余裕はない。

急がないと。

それにしても…引っ越すのか。残念だったな。
せっかく住みやすくなってきたところだったのに。

次の家を早く探さないといけないな。