駅からの帰り道、彼女は背後に気配を感じた。振り返ると、遠くに男が立っていて、じっとこちらを見ている。街灯の下で影が伸び、彼が一歩踏み出すたび、彼女の影に重なるように動く。急いで歩を速めたが、男の足音は一定のリズムで近づいてくる。家に着く頃には男の姿は消えていたが、妙な違和感が残った。

翌日、鏡を見ると、自分の影が少し歪んでいる気がした。その夜も同じ男が現れ、今度は彼女の影を踏むように歩く。足音が耳にこびりつき、眠れない夜が続いた。ある晩、男が影を踏んだ瞬間、彼女の体が急に重くなり、動けなくなった。目を覚ますと、男はいなかったが、鏡の中の影が彼女の動きとズレているように見えた。

友人に相談すると、「影を踏まれると魂が抜かれるって昔の迷信があるよ」と笑われた。でも、彼女は気づいてしまった。日を追うごとに、鏡の中の自分が薄れ、代わりに男の輪郭が浮かんでいるのを。今では、影のある場所を避けて歩くが、背後に伸びる影が自分のものかどうか、確信が持てない。