引っ越した家の階段を降りていた彼は、最後の段でつまずきそうになった。その瞬間、階段の下からかすかに囁く声が聞こえた。「落ちて…」と繰り返す低い声に、足がすくんで動けなくなる。電気をつけて確認したが、何もいない。ただ、階段下の暗がりが妙に深く見えた。
翌夜も同じ声が聞こえ、今度は「こっちだよ」と続く。懐中電灯で照らすと、階段下の壁に小さな穴が開いているのに気づいた。覗くと、暗闇の中で何かが動いている。恐ろしくなり、穴を塞いだが、夜になると囁きが大きくなり、階段を降りるたび、背後に気配を感じる。ある晩、目を覚ますと、階段下から這うような音が近づいてきた。
不動産屋に聞くと、「その家、昔、階段で事故があったみたいだね」とだけ言われた。彼は今、階段を使うのを避けているが、夜中に囁きが響く。


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