少年は夜の静寂を切り裂くピアノの音に目を覚ました。隣の空き家から響く不協和音が、窓の外から流れ込んでくる。薄暗い部屋を覗くと、埃に覆われたピアノが独りでに鍵盤を鳴らしていた。少年の足音が軋む床に響き、一瞬、音が止まるが、また鳴り始める。翌日、友達と忍び込むと、ピアノは錆びつき、鍵盤に血のような染みが広がっていた。夜が訪れると、再び音が響き、今度は少年の名前を低く呼ぶ声が混じる。懐中電灯を手に再び訪れると、鍵盤の上に白い手が浮かび、少年の指を掴もうとした。悲鳴を上げて逃げ出し、家に閉じこもったが、音は壁を越えて追いかけてくる。
母親に話すと、「その家、昔、ピアノを弾く子が消えたんだよ」と顔を曇らせた。少年は耳を塞ぎ、目を閉じるが、鍵盤の音が頭に響き、背後に埃の臭いが漂う… … … あの音はまだ止まらないのかもしれない。


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