小さな喫茶店の店主は、ある夜、奇妙な客を迎えたと語る。閉店間際に現れた男は、言葉を発さず、ただ座ってこちらを見つめていた。影が異様に長く、照明の下で揺らめき、店主の足元に伸びてくる。男が去った後、影だけが床に残り、拭いても消えなかった。翌夜も男が現れ、今度は影がカウンターに這い上がり、店主の手に触れそうになった。閉店後、店内に低い笑い声が響き、ガラスに影が映る。ある夜、男は来なかったが、影が独りでカウンターに座り、店主の名を呼ぶような囁きが聞こえたという。
常連が言うには、「その辺り、昔、影だけ残る男がいたらしい」。店主は店を閉め、鍵をかけるが、背後に影が伸び、冷たい気配が漂う。… … … あれはまだ店に宿っているのだろうか。


コメントを残す